2025/04/07 11:07
こんにちは。
junonoです。
今回は天然石からつくられた顔料(絵の具)とそれで描いた壁画や絵画を紹介します。
パリ国立自然史博物館で、天然鉱物顔料について学んできました。
毒を持つ美しき顔料や、金よりも高かったラピスラズリの天然顔料ウルトラマリンなど。
モザイク画は別として、絵画を鑑賞する際には、顔料そのものよりも描かれたモチーフや色使い、タッチなどに心を動かされることが多いように感じます。
ですが、それに加えて顔料や元となる天然石の素材自体も、観る人に対して何かの力を与えるのかもしれないと思いました。
まずは、顔料を紹介しますね。
天然鉱物顔料と古の壁画

パリ国立自然史博物館に展示されている天然鉱物顔料。
左から、オーピメント(雄黄/石黄)、シナバー(辰砂)、ヘマタイト、ゲーサイト。
オーピメント(雄黄/石黄)とシナバー(辰砂)の顔料は、その鮮やかな色ゆえに古くから非常に重宝され、使用されてきたとのこと。
しかし、どちらも毒性があって、変色するのだそうです。
ダイヤモンドよりも屈折率が高いオーピメントは、変色するとそのギャップが激しいです。
キラキラなオーピメントが変色したビフォーアフター画像をみたい場合は、こちらの記事をご覧くださいませ。

フランスのラスコー洞窟の壁画。
なんと、約17,000年前に描かれたものです。
牛や馬などの動物を描き、赤褐色の黄土色をヘマタイトで、茶褐色の黄土色をゲーサイトで表現。
粉末状にした鉱物を水、獣脂、樹液といったものでまぜて固めて、時には過熱をして色調整をして顔料をつくったらしいです。

現在は色が落ちていますが、当時はこんな感じで鮮やかな色で活き活きと描かれていたとのことです。

こちらは、イタリアのポンペイのフレスコ画。
街の守護神ヴィーナスの家。
神々しい幻想的な世界にうっとりです。
女神のお相手のマルス神の姿もみられます。
イタリアのポンペイが火山爆発で埋もれる79年の10年ほど前から描かれていたらしいです。
未だに鮮やかな色なのが凄いです。
赤はシナバー。
黄色は黄土や鉄など、青は粉末ガラスや銅鉱物、優しい感じの緑はセラドナイトなどがつかわれていたようです。
ラピスラズリの顔料 最高峰ウルトラマリンと絵画

青色系の天然鉱物顔料。
左から、アズライト、マラカイト、ラズライト、天藍石。
それぞれ、少し複雑な関係です。
アズライトの青は自然に緑色に変化してマラカイトになるのだそうです。
勉強になりました。
ラズライト(Lazulrite)は、ラピスラズリを構成する青い主成分。
天藍石(Lazulite)は、ラズライトの代わりに売られることもあるそうですが、詐欺なのだとのこと。
名称も似ていますね。
天藍石の石自体は青系だったとしても粉末にすると白色で、自己発色性ではないため、顔料にならないのだそうです。
こんな親切な展示は、初めてみました。
ラピスラズリはかつて金よりも高価だったとのこと。
その頃に騙されたならば、大変な被害にあったのではないでしょうか。

アフガニスタン産のラピスラズリの原石。
最高品質の顔料は、今も昔もほぼここからのものなのだそうです。
最高峰の青色と言われる天然のウルトラマリン顔料。
それをつくるのは大変な作業で、13世紀初頭時点での技術も気の遠くなるような工程だったようです。
まずは、ラピスラズリをハンマーで砕き、さらにすり鉢で細かく粉状にする。
粉末を蜜蝋、松脂、油などと混ぜ合わせて塊状に。
それを布で包んで灰汁の中で揉むと、ラズライトを中心とした粒子が沈殿して不純物が除去される。
この工程を繰り返すことで、高純度の青色顔料ウルトラマリンが生まれるそうです。
最終的に少量しか得られないため、非常に高価だったとのこと。
究極の青色の美を追求する裏には、こうした地道な努力があったのですね。

ギリシャの紀元前5世紀末に存在した女流画家ティマレテとそのアシスタントの様子。
15世紀のフランスの写本『Des Cleres et Nobles Femmes』(ボッカチオ著)の挿絵として、フランス人の画家が描いたものです。
アシスタントは足を開いて立ち、両手でぐーっと押しながら、ぐるぐる回して青色の顔料を作っているように見えます。
大変な作業だったのではないでしょうか。

こちらは、12世紀につくられたカシミール、チベット文化圏の仏教経典の一部。
絵は仏教の智慧の経典「プラジュニャーパラミター(般若波羅蜜多)」を擬人化した姿を描いたもの。
金、ラピスラズリ、シナバー、オーピメントを使ったとても豪華な仕様。
装飾写本は、経典の内容を視覚的に伝えるだけでなく、信仰の対象としても崇められているとのこと。
仏教において、深い青色は智慧や精神的な力を象徴する色です。
そして、チベットにおいて天然石はとても大切なもの。
ラピスラズリは心を落ち着かせ、不安やストレスを和らげる癒しの効果があると考えられているようです。
読み手は、経典の教えとともに石の顔料からのパワーも感じられたのかもしれませんね。
チベットの石文化について興味がある場合は、こちらの記事をご覧くださいませ。

イタリアのルネサンス期の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『バッカスとアリアドネ』(1520年~1523年頃)。
薄い青色は多少は安価なアズライトを使い、ここぞという箇所の濃い空や衣の青色を貴重な天然ウルトラマリンで着色。
一部の緑系はマラカイト、赤系はシナバーで描かれているようです。
やはり、天然ウルトラマリンの色が一番目を引きます。

イタリアのバロック期の画家、ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィの『祈る聖母』(1640年~1650年頃)。
美しすぎる天然ウルトラマリンの衣に身を包み、穏やかな祈りをささげる様子が印象的です。
観る人に心の安らぎを与えてくれるような青色ですね。

オランダの画家ヨハネス・フェルメールの『牛乳を注ぐ女』(1660年前後)。
別名フェルメールブルーとも呼ばれる、鮮やかな天然ウルトラマリンの青色が使われています。
フェルメールは多くの作品に高価な天然ウルトラマリンをたっぷり使い、借金をし続けたことで有名です。
天然ウルトラマリンで描いた実物の絵を観たくて、ルーブル美術館へ行ってきました。
合成ウルトラマリンが開発されたのが1828年なので、その前に描かれた作品には天然ウルトラマリンが使われている可能性があります。
特に注目した作品を選んで鑑賞してきました。
その中でもやはり気になったのが、フェルメールの作品。

『レースを編む女』(1669年〜1670年頃)。
この作品は落ち着いた感じのブルーでした。
一般的な画家はここぞという箇所でウルトラマリンそのものの色を活かして描くのに対して、フェルメールは下地にもウルトラマリンを惜しみなく使っていたとのこと。
この常識破りな描き方からは、天然ウルトラマリンがもたらす力への期待と、並々ならぬ素材への愛と情熱が感じられます。
以上、今回は天然鉱物顔料とそれで描いた壁画や絵画を紹介しました。
それでは、また次回に。